
沖縄の貧困率“全国ワースト”とくに深刻な子どもの貧困
日本国内における“貧困”という言葉は、どこか遠い世界の出来事のように感じられるかもしれません。しかし、ここ沖縄では、貧困は決して他人事ではありません。厚生労働省や沖縄県が発表する統計データを見ると、沖縄の貧困率は全国ワーストであり、特に「子どもの相対的貧困率」の高さが深刻な社会課題として長年指摘されています。
2022年に公表された沖縄県の調査によると、県内の子どもの貧困率はおよそ3割とされ、全国平均(約1割)を大きく上回っています。つまり、沖縄では子どもたちの3人に1人が「相対的貧困」の状態にあるという現実が、私たちのすぐそばに存在しているのです。
この数字は、単なる統計にとどまらず、教育機会の格差、家庭環境の不安定さ、健康や将来の選択肢の制約など、多方面に大きな影響を及ぼしています。
特に子どもの貧困は、本人の努力や意志だけではどうにもできない「構造的な困難」として、社会全体で向き合うべき課題です。親の収入や家庭環境、地域の雇用状況などによって、生まれた時点で子どもたちのスタートラインが大きく異なってしまう——それが沖縄の現状です。
「沖縄の貧困率はなぜここまで高いのか?」「なぜ子どもの貧困が全国ワーストなのか?」
この記事では、沖縄の子どもの貧困率が全国ワーストである理由を、“構造的な視点”からひも解きます。
そもそも“相対的貧困”とは?——子どもに現れる課題
「貧困」と聞くと、食事すら十分にとれない、住む家もない——という“絶対的貧困”をイメージする方も多いかもしれません。しかし、現在日本で注目されているのは「相対的貧困」という考え方です。
相対的貧困とは、社会全体の所得水準の中で、その半分(50%)未満の所得で暮らしている状態を指します。具体的には、厚生労働省が発表する「国民生活基礎調査」によると、日本の2022年時点の相対的貧困線は、1人あたり年収約127万円(等価可処分所得)とされています(※1)。
つまり、世帯人数や家族構成によって金額は変わりますが、「世の中の“普通”の生活が送れないほど経済的に厳しい状況」に置かれている人たちが、相対的貧困層となります。
なぜ“相対的貧困”が問題なのか
相対的貧困の最大の問題は、「貧困が見えにくく、声が上げづらい」ことです。
表面的には、普通の暮らしをしているように見える子どもでも、
- 新しい文房具やランドセルを買えない
- 部活動や習い事を諦めざるをえない
- 友だちと同じように旅行や外食を楽しめない
など、日常のさまざまな場面で「当たり前」に参加できない壁に直面しています。
子どもの相対的貧困がもたらす課題
子どもの相対的貧困は、将来にわたって“負の連鎖”を引き起こす深刻な課題です。
具体的には——
- 教育機会の格差:進学や塾、習い事をあきらめる、学力差が拡大する
- 健康格差:十分な食事や医療を受けられず、体力・発育に影響
- 自己肯定感の低下:周囲との違いに気づき、自己否定や孤立感につながる
- 将来の選択肢の狭まり:非正規雇用・低収入の仕事を選ばざるを得なくなる
このような「格差」が、一世代で終わらず、親から子へ、そしてその子どもへと連鎖することが、社会全体の課題となっています。
日本の子どもの相対的貧困率
厚生労働省によると、2022年時点の日本の子どもの相対的貧困率は11.5%と発表されています(※2)。
これに対し、沖縄県は直近の調査(2022年度)で子どもの貧困率が29.9%と、全国平均の2.5倍以上という非常に厳しい状況です(※3)。
データで見る沖縄の子どもの貧困率と現状
沖縄の子どもたちを取り巻く「貧困」の状況は、全国的に見ても極めて深刻です。数字で見ることで、その“特異性”と“緊急性”がより鮮明になります。
沖縄県の子どもの貧困率は全国ワースト
沖縄県が2022年度に実施した調査(※1)によると、沖縄県内の18歳未満の子どもの相対的貧困率は29.9%と報告されています。これは、全国平均(11.5%)と比較して2.6倍以上の水準です。
この「3人に1人が貧困状態にある」という事実は、まさに全国でも突出しています。
全国との比較:沖縄はなぜこれほど高いのか
- 全国平均(2022年):11.5%
- 沖縄県(2022年度):29.9%
他の都道府県と比較しても、沖縄の数字は群を抜いています。
たとえば、北海道や鹿児島県など、やや貧困率が高い地域でもおよそ15〜16%程度であり、沖縄の約30%という値は、極めて異例と言えるでしょう。
一人親世帯や生活保護世帯の割合も高い
沖縄県は一人親世帯(特に母子世帯)の割合が全国で最も高い地域の一つです。
2022年度の調査(※4)によれば、県内の一人親世帯のうち、約60%が相対的貧困状態にあり、全国の一人親世帯の貧困率(48.1%)よりも高い水準となっています。
また、生活保護を受けている世帯や、生活保護水準に近い“ギリギリ”の生活をしている家庭も少なくありません。
家庭のリアル:日常生活への影響
- 「新しい教科書や文房具を買えない」
- 「修学旅行や部活動の費用を捻出できない」
- 「家族全員が一部屋で寝ている」
- 「十分な食事をとれない日がある」
貧困が地域全体の課題となる理由
こうした実態は、子どもたちの健やかな成長や将来の夢を奪うだけでなく、地域の社会全体にとっても大きな損失となります。
たとえば、進学率や高校中退率のデータを見ると、沖縄は全国で最も高校中退率が高い(※6)という側面もあり、教育格差が地域の将来にも影響していることが示唆されています。
なぜ沖縄は子どもの貧困率が高いのか?——構造的要因をひも解く
沖縄の子どもの貧困率が突出して高い背景には、複数の「構造的な要因」が絡み合っています。ただ一つの理由ではなく、歴史・経済・社会・制度・文化など、さまざまな側面からの影響が重なっているのが実態です
歴史的背景:戦後から続く基地・経済の構造
沖縄は第二次世界大戦の激戦地であり、戦後は長く米軍統治下に置かれました。その後も日本への復帰を経て、本土とは異なる社会経済の道を歩んできました。
特に大きな特徴は、基地経済への依存です。
基地関連の収入は減少傾向にありますが、それでも地域経済に影響を与え続けているのが現実です。
非効率な土地利用と産業育成の遅れ → 民間雇用の安定化が進まず → 非正規雇用・低所得が多数、低所得状態が親世帯に広がる → 一人親家庭を含む子ども世帯の貧困率上昇、 所得水準・雇用の不安定さが常態化、ネガティブなフィードバックがループするこの社会構造が、貧困の連鎖を助長するみたいな流れになっています。
経済的要因:非正規雇用・低賃金・産業の偏り
- 主要産業である観光業やサービス業、基地関連労働などは、パート・アルバイトや契約社員など非正規の雇用形態が多い
- 一人あたり県民所得は全国最下位レベル
- 雇用の安定やキャリア形成が難しく、家計全体の収入が不安定になりやすい
社会的要因:一人親世帯・教育機会の格差
- 若年層の結婚・出産・離婚率が高い
- 親族や祖父母と同居して助け合う「大家族文化」もみられるが、近年は核家族化も進行
- 父親が家庭から離れているケースや、母親が複数の仕事を掛け持ちすることも多い
制度的要因:支援の届きにくさと行政課題
- 離島や山間部が多く、**行政サービスの“空白地帯”**も生まれやすい
- 支援を受けるための情報や手続きが複雑、担当者の人手不足
- 地域コミュニティの支え合いが弱まりつつあるなか、孤立した家庭が増えている
- ユイマールを前提とする中で生活保護の受給に対する“ためらい”や、周囲の目を気にして申請しない世帯も少なくない
文化的要因:貧困や母子家庭が「当たり前」になってしまう社会
- 周囲に同じような境遇の家庭が多いため、相対的貧困が“当たり前”として認識されやすい
- 困難を口に出しにくい、援助を求めにくい心理的ハードル
- 「家族は家族で支えるもの」という価値観が強く、公的支援につながりにくい側面も
子どもの貧困がもたらす現実——教育・健康・将来への影響
沖縄で子どもの相対的貧困率が高いという現実は、単なる統計の話ではありません。それは子どもたち一人ひとりの日常や未来に、具体的かつ深刻な影響を与えています。
教育機会の格差と“学びの連鎖”の断絶
沖縄で子どもの相対的貧困率が高いという現実は、単なる統計の話ではありません。それは子どもたち一人ひとりの日常や未来に、具体的かつ深刻な影響を与えています。
家庭の経済的な困難は、学習環境や進学の機会に直結します。
- 学用品や制服、教材費を捻出できない
- 塾や習い事、放課後の補習に通えない
- 高校や大学進学を断念せざるを得ない
健康・生活環境への影響
子どもの貧困は、健康や基本的な生活にも大きな影響を与えます。
「食生活の乱れ・栄養不足」朝食を抜いたり、バランスの取れた食事ができない家庭も多く、成長期に必要な栄養が不足しがちです。
「医療や健康管理へのアクセス困難」怪我や病気になっても医療費を気にして受診を控えたり、定期健診を受けられないケースも見られます。
「住環境の不安定さ」狭い部屋で家族全員が寝ていたり、引っ越しを繰り返すなど、落ち着いた生活環境を得られない子どももいます。
こうした状況は、身体的な発育だけでなく、心の健康や自己肯定感にも大きく影響します。
“自己肯定感の低下”と社会的孤立
貧困家庭の子どもは、
- 周囲の友だちとの“違い”を感じる
- 欲しいものを我慢する、行事や旅行に参加できない
- 親の悩みや不安を日常的に感じる
こうした経験が積み重なることで、「自分は恵まれていない」「自分には価値がないのでは」と自己肯定感の低下や、社会的な孤立感を抱きやすくなります。これは将来にわたり、夢や目標にチャレンジする意欲の減退や、人間関係の構築への壁につながる場合もあります。
将来の選択肢・可能性の縮小
子どもの貧困は、本人の努力ではどうにもならない「社会的ハンディキャップ」を生みます。
- 高校や大学進学を断念せざるを得ない
- 職業選択の幅が狭まり、非正規雇用や低賃金労働に就きやすい
- 大人になってからも安定した生活を築きにくく、次世代に貧困が連鎖するリスク
沖縄県では、高校中退率が全国でも高い水準にあり(※2)、これは経済的な困難と密接に関連しています。
社会全体にとっての大きな損失
子どもの貧困は、個人や家庭だけの問題ではありません。地域の未来を担う人材が可能性を伸ばせない社会は、長期的には経済成長や活力の低下につながります。また、貧困が固定化されることで、格差や分断が拡大し、地域社会の持続可能性にも大きな課題となるのです。特に沖縄県という土地はそれが顕著だと思います。
支援の現場と最新の取り組み——行政・NPO・地域社会
沖縄の子どもの貧困問題は、長年にわたる構造的な課題ですが、社会全体での意識が高まる中で、行政、NPO、地域社会が連携しながら、さまざまな支援や改革の取り組みが進められています。
行政による取り組み
沖縄県や市町村は、独自の「子どもの貧困対策計画」を策定し、予算を確保して支援策を展開しています。
•子どもの居場所づくり事業
•学習支援・進学支援
•保護者への相談・就労支援
NPO・民間団体による現場支援
行政の枠組みを超えて、地域密着型のNPOやボランティア団体が、実際に困難を抱える家庭や子どもたちに寄り添ったサポートを行っています。
•子ども食堂・学習支援拠点の運営
•アウトリーチ(訪問支援)
•就学援助や体験活動支援
沖縄県内の代表的なNPOとしては、「沖縄子どもの未来県民会議」や「しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄」などがあり、地域ネットワークを活用したきめ細やかな活動が展開されています(※2)。
地域社会のつながりと新たなチャレンジ
近年、地域社会全体が“子どもの貧困を自分ごと化”し、支え合う動きも強まっています。
- 企業や団体による寄付・ボランティア
- 地域の商店街や農家と連携したフードパントリー(食糧支援)
- SNSやイベントを通じた啓発・情報発信
参考サイト
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厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」
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厚生労働省「子どもの貧困率」(国民生活基礎調査内)
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沖縄県「令和4年度沖縄県子どもの貧困実態調査結果」
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沖縄子どもの貧困緊急対策事業報告書(NPO・行政共同調査)
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文部科学省「学校基本調査」(令和4年度)
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沖縄県「米軍基地と沖縄県の経済、財政」
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沖縄県「ちゅらしまの今を知るNo.581 基地収入と基地跡地利用」
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厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」
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沖縄懇話会「沖縄の経済構造(軍用地の割合など)」
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琉球新報「基地経済依存度の歴史推移」
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保健・医療・福祉分野の政策研究・情報サイト「沖縄の米軍基地依存と地域経済」
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沖縄県「子どもの貧困対策推進計画」
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沖縄子どもの未来県民会議(寄付・支援)
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沖縄子ども食堂・学習支援マップ