島嶼学で考える沖縄①「沖縄の社会経済のネットワーク」

島嶼学で考える沖縄①「沖縄の社会経済のネットワーク」

島嶼学 沖縄

皆さんは、「島嶼学(Nissology)」という学問をご存知ですか?島嶼学は1994年に沖縄で開催された「第一回 国際島嶼学会(The International Small Island Studies Association : ISISA)」開催時にニューサウスウエルズ大学のグラント・マコール教授の「島嶼学=島をありのまま研究する」学問分野としてニソロジー(Nissology)が提案されたのが始まりです。その後、ニソロジーは島嶼の「特性」を多面的に研究する学問として認識、学会用語としても定着しています。つまり島嶼学とは沖縄から生まれた比較的新しい学問になります。沖縄から新しい学問が誕生、そして世界的に認知されているのは誇らしいですよね。本記事から複数回に分けて、そんな島嶼学について解説していきます。なお、本記事は筆者が琉球大学大学院の講義で学んだことをベースに執筆しております。

考えてみたら分からない「島の定義」とは?

皆さんは島の定義について考えたことはありますか。私は考えたことがなく、実際に「島とは何か?」という質問をされた時には答えることができませんでした。そんな島の定義についてですが、結論から言うと、国や地域によって異なります。なお、代表的な分かりやすく機能的な分類として以下が挙げられます。

スコットランドの定義

人が住み、最低一頭の羊を養える牧場がある

地理学の定義

大陸より小さい陸地。オーストラリアより小さい陸地が島と定義される。

国際連合海洋法条約 第121条

  • 周囲が水に囲まれ、自然に形成された陸地であること。(人工島は島では無い。)
  • 満潮時に水没しないこと。満潮時に水没する「低潮高地(暗礁)」は島ではない。
  • 人間の居住又は独自の経済的生活を維持できる陸地であること。満潮時に水没しない「岩」はこの条件を満たさない限り島ではなく、「領海」は設定できるが独自の「EEZや大陸棚」は設定できない。

日本の定義

  • 周囲が水に囲まれ、周囲が0.1km以上のもの、(海上保安庁)
  • 架橋、海中道路など本土と一体化した島、埋め立て地を除く
  • 本土5島(北海道、本州、四国、九州、沖縄本島)を除く島

色々、記載されてはいますが、絶対的な共通認識的な定義は、存在していないと言うのが現在の状況です。一応は国際連合海洋法条約の定義が引用されることが多いようですが、絶対的なものとはなっていないようです。島嶼学とは、そんな「島とは何か」「島の定義」について考える学問になります。

島嶼学方法論「超学的アプローチ」

「島と何か」という問いに答える島嶼学ですが、学問としてはどのようなアプローチを取る必要があるのでしょうか。島嶼学の対象となる各々の島嶼は「海洋性」、「極小性」、「分断性」といった複合的な特性「多様な島嶼性インシュラリティー」を有しているため、その研究・調査は「学際的・複合的・価値前提的」、あるいは「超学的」なアプローチをする必要があります。超学的なアプローチとして地球、社会、人間の複数のシステム間の相互作用を俯瞰的・統合的なアプローチとしてサステナブルな社会構築を目指すサステナビリティ学というものがあり、テーマの近似性から島嶼学もその一分野とも言えます。

また、島嶼研究は超学的なアプローチに加えて「ネットワーク型」「参加型」「フィールド型」の研究活動を目指すべきだと著者は主張していて、近年ではカリブ海や太平洋の島々を事例にした「自然実験」にも注目が集まっているという記載あります。このことからも島嶼学はフィールド調査や自然・歴史データの分析といった様々な側面から研究する必要が読み取れ、学際的を超えた超学的なアプローチを取る必要があることが読み取れます。

島嶼経済の特性

沖縄をはじめとする島嶼の島々は大陸とは異なる「特質」を持っています。簡単にではありますが、島嶼経済の特徴としては以下が挙げられます。

1.資源の狭小性

天然資源、人的資源が限られているので賦存量の限界があります。(つまり経済活動の多様性を欠くということです。)

その他にも島嶼経済においては以下が挙げられます。

  • 一次産業で自給自足的経済志向
  • 島特有の輸出資源に特化
  • 観光資源やオフショアビジネス(特性を生かしたサービス産業)で外貨を稼ぐ

2.市場の狭小性

これまでの経済史を見ても、経済発展速度は分業の進展によって決定されます。また、その分業は市場の大きさによって規定されるので、十分な市場規模があって分業化することができて初めて経済発展ができます。

このことを沖縄に当てはめて考えた場合、沖縄県内で製造業が育たなかったことにも納得がいきますよね。製造業は規模の経済に大きく影響されるので、人口が少ない沖縄においては、スケールメリットを享受できないというわけです。現に沖縄においてサンエーやかねひでといった小売業や上間天ぷらなど外食産業の展開はあるが、日常生活品については工業化されず、県外に向けた輸出品というものはあまりありません。

3.規模の不経済性

先ほども少し述べましたが、島嶼においては「規模の不経済性」というものが働きます。そもそも規模の経済とは規模が大きくなるほど単位当たりのコストはが低くなることで、島嶼地域はその逆「規模が小さくなるほど単位当たりのコストは高くなる」という理論が働いてしまいます。これは「投資、消費、交通、輸送、教育、研究開発、行政サービス」などあらゆるもの当てはまります。島嶼エリアは自身抱える「狭小性、分断性、海洋性」による経済有意性が打ち消されてしまう傾向にあります。

4.輸入超過経済―慢性貿易赤字―

沖縄の人が言う「内地に出稼ぎに行ってくる」というように島嶼に住む人々は頻繁に出稼ぎに出かけます。また、出稼ぎ行くと同時に、出稼ぎの地にもなりうることもあります。宮古島や石垣島の人が沖縄本島に出稼ぎに来るイメージです。

このような人口流出は、若者(人的賦存資源)や、技術者、頭脳の流出とも言い換えることもできるので、地域によってはかなり大きな問題となり得ます。一方、このように人口圧力を軽減する事で、失業率は下がる傾向にもあるようです。

5.高い人口流動(移民・出稼ぎ)

島嶼地方はその自身では製造がしづらいという特性から、あらゆる消費財を輸入しています。特に人口100万人以下のADB加盟島嶼国においては、経済成長に伴い赤字が増大して、借金か海外援助で経済維持しています。ちなみに、貿易収支からは、沖縄は典型的な島嶼経済(輸入超過経済)となっています。

6.高いサービス産業依存

これは所謂「ペティ・クラークの法則」が当てはまらない良いことです。一国の経済は通常、農林水産(1次)から製造業(2次)そしてサービス産業(3次)
物(教育、情報サービス、娯楽、スポーツ、旅行、医療介護など)にシフトします。しかし、島嶼は1次から3次にスキップするので、先進国や大陸にある国とは異なる産業構造になってしまいます。

7.観光―島嶼型産業

「観光重視」これは島嶼経済の最大特徴となり、ツーリズム経済などと言われます。資源が豊富であることから島嶼のサービス産業の中で最も経済成長が期待される分野です。以下が観光産業のメリット一覧になります。

  • 観光産業の顧客のニーズの多様性×島の魅力・差異(地理的ユニークさ・独特の文化)
  • 観光産業は市場規模に左右されない複合産業としての面もある。(生産・加工・販売(お土産など))
  • 観光産業は域内産業関連効果が高い
  • お土産もの…サービスと同時にモノを移輸出する。

8.高コスト経済(物流コスト・輸送リスク)

島嶼は大陸から割高な輸送コスト となります。製造業が育たない理由としては、この高コストも理由となります。

9.植民地化の遺産

多くの島嶼地域は15世紀から17世紀の大航海時代において、列強によって侵略・植民地化されるケースが多かったです。そのため、19世紀終わりごろにはほとんどの島嶼地域は伝統的土着生存的部門と近代生産部門(プランテーション)といった出稼ぎ、キリスト教などの宗教、統治の方法、白人の移民、アフリカからの奴隷労働、複雑な多民族社会の出現、貿易依存体質・モノカルチュア化など社会や産業が複雑化していきます。 

また、旧宗主国からの独立後も通貨をそのまま利用したり特別な関係を存続するなど、影響はまだまだ大きなものとなっております。

10.国境の島―機会かそれとも脅威?

沖縄もそうであるとうに島嶼には国境の島として存在、紛争の歴史・境界のゆらぎ(両義性)を抱えているエリアも多数あります。その島を領土としてどのように定義するかで国の権益の問題や防衛に関して大きく動くため、過大なストレスを抱えているとも言えます。

まとめ

島とは何かという問いに答える「島嶼学」。研究対象となる島が多様性を有する複雑な島というものなので、そのアプローチは複雑化してしまうというのが特徴でした。次回以降の記事ではそんな島嶼学的な視点で沖縄を観察していきたいと思います。

この記事の執筆者
岸本強資

沖縄県にある高校を卒業後、都内の大学に進学、ベンチャー企業やコンサルティングファームを経て、現在は沖縄を拠点に活動するフリーランスWebマーケター。琉球大学大学院で沖縄経済についても研究中。マーケの仕事と沖縄経済研究を専門にしています。 webマーケは全般対応可能でpythonや統計(計量経済学)を組み合わせた自動化や定量分析・運用が差別化ポイント。研究テーマは「沖縄経済」「生産性」「計量経済学」のあたり。沖縄の社会問題に関心があり、歴史や制度的な問題が複雑で実態が掴みづらい沖縄県が抱える問題をなるべく数字を出して発信しています。
               

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